虚勢この記事を はてなブックマーク に追加この記事を はてなブックマーク に追加

 地域猫の貼り紙を見て、半年前に遊んだ一匹の猫を思い出していた。貼り紙では「虚勢」という誤植になっていた、なんて話はどうでもいい。あまりに人懐こいのと、右耳が欠けているのが気になっていたけれど、つまり、こいつは去勢されていたのだった。警戒する素振りを見せずに、体を擦り寄せてくる大人しい猫だった。

 ヘミングウェイの短編『神よ、男たちを楽しく憩わしめたまえ』では、去勢の意味を勘違いして、ひどいことになった少年が病院に担ぎ込まれていた。かといって俺が方法について詳細に書きたくはないから、まあ省略するんだけど、あるいは人間ではなく猫について。岡崎二郎の漫画『NEKO2』には、闘争心の強かった雄猫が、去勢されて大人しくなる話があった。男らしさを失い、周りの猫たちから馬鹿にされ孤立してしまった彼に、一匹の雌猫が接近してきて懐くといった内容で、べつに感心した訳でもないが、ともかくそういう漫画だった。

 勢いを削がれてしまった男が、どうやって生き延びていくのか知りたいとは思う。公園で出会った耳の欠けた猫は、中性的になったのではなく、依然、男としての自覚があり、身体もさほど変わってはいないのに、根幹は揺らいでいたような気がする。野良猫ではなく家猫でもない、自立はしていないが飼われてもいない、去勢された地域猫というのは決して不幸ではないが幸福でもないと考えた。ただ、その場所にいて、生き延びている。

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