ノート 820080701


2007.7.6 Billie's Backpackers Hostel, Fairbanks
山のような荷物を積んだ二台の自転車が、北極海に向けて出発した。ドイツ人の男、スイス人の女とそれぞれ握手する。ここから八百キロを彼らは十日間で走ると言った。俺もあとから追いかける形になるが、砂利道ということもあり十四日間で走る計画を立てた。二度と会うことはないんだろうな。
二人を見送った後、テントに引き籠もった。何も考えたくはないし何処にも行きたくはなかった。ガイドブック『地球の歩き方・アラスカ』を開いてみれば、市内には幾つかの観光スポットが一応あるけれど、興味を引かれるのは博物館くらいなもので、しかしテントから這い出る気力も体力もなかった。今日は一切動かない、何もしないと決めて寝袋に潜ったが、日が高くなるとテントが蒸し風呂のようになって堪えられず、外に出た。
キッチンでスパゲティを茹でていると、アトランタから来たという若い男に話しかけられた。少しく陰のある物静かな青年で、アメリカ人にしては珍しいと思った。夏休みで長い休暇に来ているんだ、大学では環境科学をやっている、と彼は言う。いったいその環境科学というやつは何を学ぶのかと訊ねてみると、彼は照れくさそうに「Everything.」と答えた。良くいえば学際的だが、悪くいえばそういうことになるんだろうなと思った。
南米まで自転車で走るというタクトさん、アラスカ大学の聴講生ユリコさんと雑談をする。二人とも日本が厭になって飛び出し、世界中を旅してきた経歴を持っており、とても敵わないけれど、しかし俺は彼らのようになりたいのかと自問した。日本でどうにもならないことが外国では解決する、とは考えられない。結局は持ち帰ることになる。持ち帰る荷物を増やすためにむしろ旅行するのかもしれない。
ロビーで寛いでいるラルフというドイツ人の男がいた。彼は旅行者をバスに乗せて日帰りツアーに連れて行く仕事をしていた。ユリコさんによれば、ラルフは日本人女性と結婚して森に住んでいたのだが、離婚してしまい町に出てきたのだという。何か達観したような落ち着きは俺からみても格好良かったし、ユリコさんは中年男性がそもそも好みとのことで、半ば惚れているようだった。日本にいれば考えずに済むことがたくさんあって、楽しいけれど、厄介だ、面倒だなと思った。
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