ノート 420080603


2007.7.2 Talkeetna ― Denali Viewpoint South ― Byers Lake Campground 105.7km
長く深い眠りから覚めた。引き籠もっていたテントから出ることにひどく怯えながら、意を決してジッパーを開ける。どうってことはない。隣に家族連れで泊まっていたオッサンと握手などする。何を気に病んでいたのかと思う。
自転車を押してタルキートナの町を歩いた。博物館に行き、植村直己の展示を見る。俺が生まれる五ヶ月前にこの町からデナリ(マッキンリー山)に飛び立った植村さんは、世界初の冬季単独登頂に成功後、そのまま消息を絶っている。捜索で見つかった遺品が展示されてはいるけれど、なんとなく、亡くなったことを信じ難い。彼の偉大さは、人を引き寄せる人柄にあったと思う。
眠気がすっかり飛んで軽くなった体で出発。冬のあいだに傷んだ舗装を、短い夏のあいだに直すため、あちこちで道路工事をしている。橋の上で片側交互通行になり、STOPと書かれた標識を持つネーチャンと話した。この近くで子どものクマが先週捕らえられたこと、母クマがまだうろついていることを聞いて怯えるが「But you don't have to worry.」と笑われた。車列の先頭にいたオッサンまで一緒に笑うので、俺も笑った。
単調な景色を走り続けて七時間、ようやく視界が開け、デナリを南側から望む場所に来た。デナリの語源はアサバスカンの言葉で「高いもの」。麓からの比高ではエベレストより高い。デナリの奥さんのあたるのがフォーレイカー山、ほかに子どももいる。マッキンリーの名は大統領から取られ、アメリカ地理学協会が決めたものが未だ覆らない。地元住民や登山家たちはデナリに戻せと主張。現在はデナリの名が広く用いられるが公式には未だマッキンリー。

夜、キャンプ場で管理人のおばさんと話すが、ほとんど何を言ってんのか解らない。今日までに「Sorry, I don't understand English.」を何度言っただろう。気が小さいので開き直ることもできないのが哀しい。白飯を炊いてゴマシオふりかけたのが旨い。ココアも素晴しく旨い。吉本隆明『少年』を読んで眠ろう。時刻は二十二時五十二分。
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