暑熱

 窓をすべて開け放しても部屋の気温が三十九度って何、暑いよ埼玉。エアコンが要らないとかいう人の部屋にはたいていエアコンがついていて使っていないだけなのだから俺に三千円で譲ってほしい(取付工事費込み)。日本は清涼飲料水の価格がとても安いのは素晴しいことだ。某国のフレッドマイヤーというスーパーで缶珈琲が三百円、オレンジジュースが二百五十円のときは水しか飲めなかったが、水道水は冷たくて旨かった。今の埼玉の部屋では水道管が二階まで外壁を這っていて、あろうことか黒いテープが巻いてあり、昼間は六十度ほどの熱湯が出る。某国に帰りたいような、帰りたくないようなと思うが、どうせ夏の間だけだ。

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暑寒

 北緯七十度まで行き、高校生の頃から考えていた夢があっけなく叶い、これ以上に北へ行くとすればグリーンランドに目標を定めるほかないが、ここで北緯八十三度まで行ったとして北極点までは遠い。だからもうやめたいと思った。南米のウシュワイアを目指すというスイス人やドイツ人など数名に会ったが、その後どうするかといえば、世界一周に向かい、多分それが終われば二周目に入るだけのことで際限がない。事実、世界一周を終えて二周目を始めた旅行者を知っている。何に取り憑かれているのか。
 フェアバンクスで知り合った日本人が「冒険家」と名乗ったときには敵意を覚えた。冗談めかして言ったことと解っていても許容し難かった。多分、彼は僕より遥かに知識と体力と経験があり、たとえば摂氏五十度の炎天下を知っており、二十リットルの水を積んで走ったなどという話は面白いが、面白いだけでは何も生み出さない。自由に使える時間と体力さえ持っていれば、誰にでも出来る。或いは破滅的な衝動さえ持っていれば体力が尽きていても走れる。
 これもフェアバンクスで聞いた話だが、僕が到着する数日前に、僕と同年齢の男が、その宿に担ぎ込まれたという。六百キロ近い距離をほとんど眠らずに二日間で走り、わずかな休息をとると、再び走り始めたが、まもなく肺炎を起こして倒れた。自転車で一日に走れる距離は平均的に百キロ前後で、彼はつまり異常だった。長距離を無理して走ることで自身を傷めつけようとしたことは、僕にも経験があるから批判はできないが、或いはその衝動を宥めるために他の理由付けをして旅行しているのだと認めなければ、何らかの失敗を犯すように思う。たとえばそれが死に繋がることもあるのだろうが、先述の冒険家は長生きなどしたくないと言っていたから、しようのない話だ。
 現在の僕に衝動がなくなっているとすれば、走ることを一切止め、真っ当な生活を構築することだと思った。ちょうど旅行直前に友人と会い、彼が子供を養っていることを知り、この時点で一切の衝動はおそらく消えていた。または中上健次が破滅的な暮らしから脱して羽田空港で働き始め、家庭を持ったのが二十三歳の頃だという知識もあった。だからもう走ることはできないし、真っ当に生きなければならないと思った。但し不可解なのは、衝動的な感情がなくなり、夢が叶い、ほかに叶えたいことも特に見当たらない現在、一切の気力をなくしていることで、たとえばこれは冬のあいだに暖かさを欲していたのが夏になって冷涼を欲することと似ているかなと思う。何を言ってんだろうか俺。

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昼夜

 Cook Inlet

 背景色をなんとなく変更。

 今夏、部屋で記録した最高気温は摂氏四十二度だったが、現在の気温はちょうどその半分、摂氏二十一度しかなく、暑さに慣れた体には少しく寒さを覚えるほどで、カフェインレスコーヒーの温かいのを飲んでいる。ついこのあいだまでは暑さに打ちのめされて日中はごろごろ寝転がり、夕刻から明け方にかけてが活動時間だったのだが、涼しくなった今もまだ生活が元に戻らない。昨日など午後二時起床だった。

 あーーバイト探さないと。配達か接客か写真関係。

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