夜行記 – 6この記事を はてなブックマーク に追加この記事を はてなブックマーク に追加

 大村市のTさん夫妻宅に二晩泊めて頂いた後、フェリーで有明海を渡り、阿蘇山のカルデラに入った。内牧温泉のライダーハウスは建物が立派なつくりで清潔な蒲団もあって一泊が八百円、近くのスーパーには二百円の弁当があり、町湯は百円、こんな環境であるから引籠りのような滞在者がごろごろと居る。自転車に較べてオートバイならば出発は遥かに容易と思われるけれど、すべては雨のせいで、唐突に降り始めては数分で止み、陽が射したと思えば風が吹いて雨になる。同室の大学生は五泊目、出発日未定。

 俺と同い年の自転車旅行者H君は、大阪府羽曳野市から走ってきた。芸大を後期休学して石垣島を目指すという。演劇をやっていた為に体力は相当のものがあり、初めての旅行で既に二千五百キロ走った。朝市に行くと野菜などいろいろ只で持たされて食費が一日に四百円で済むと話していた。とてもかなわない。そのH君と連れ立って中岳に登った。内牧が標高五百メートル余り、中岳火口展望台は千五百メートル近い。喋りながら並んで走り、二時間かけて草千里ヶ浜に着いた。ソフトクリーム、だご汁、馬串を食べ、草千里と烏帽子岳とを俺は写真に撮り、H君は絵に描いた。擂り鉢のような中岳火口からは白煙が頻りに立ち上っていた。火山ガスを胸一杯に吸い込んで下山。

 宿へ戻るとH君は弁当を食べて荷物をまとめ、雨の中、午後五時なのに高千穂を目指して旅立った。意味が解らないけれど、自分はこのライダーハウスから、あの天幕生活に戻れるだろうか、そう考えれば今すぐに出発すべきだとは思う。眠いのは雨のせいで、明日は部屋に籠もり、山本周五郎『さぶ』を読んでゆっくり過ごしたい。

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