日記この記事を はてなブックマーク に追加この記事を はてなブックマーク に追加

 駅から学校へ自転車で走っている途中、住宅街の家と家のあいだ、草の生えた小さな空地に、二十代半ばと思われる女の人が手を胸の上で組み、膝を折り曲げて仰向けに横たわっていた。蝋人形のような質感の顔をしていたのは血が通っていないためか化粧のせいか、或いは死化粧のようにも見えた。顔に触れてみれば生死が判るのかもしれないと思い、救急や警察を呼ぶことなど考える余裕もなく草を踏み分けて近寄った。屍蝋化現象という言葉をふと想起する。これは空気と長く遮断された状態にあって起こる現象だから白昼の住宅街では起こりうるはずもなく尚且つ屍体が長期間放置されることも起こりえないのだった。だからこれは蝋人形かマネキンの類に違いないと思い、からだに触れようか止めようかと暫し逡巡した。十数秒後に声を掛けると、上半身を起こして寝呆けた様子でこちらを眺め、辺りを見回し、もう一度こちらを見た。大丈夫ですかなどと月並な言葉をかけて、頷いてはいたけれど大丈夫ではないと思った。柔らかなからだに触れておけばよかった。硬かったのかもしれない。

 それから大学へ向かっても間に合わないと判ったので本沢ダムに行った。ありえない傾斜の坂を登り、たどりついた展望台からは剥き出しの湖底とタービンが見えた。五月にしては尋常でない寒さで、今日はどうにも非現実的な事ばかり見たのだけど、空地は京王高尾線めじろ台駅から徒歩五分の場所にあり、実際の出来事。

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